子どもたちの意見が尊重され、保育者も子どもも一緒になって保育環境を作っているフローレンスの保育園。
「今日はどこにお散歩に行きたいかな?」「歩きたい?バギーに乗りたい?」「何のおもちゃで遊ぼうか?」といったように、保育者がそのときの子どもたちの気持ちに寄り添いながら、子どもの「やってみたい!」を引き出す声がけをしている様子もよく見られます。
子どもたちの「やってみたい」を引き出し、それを実現するために、保育者はどんな想いで保育をしているのでしょうか。
フローレンスの保育の魅力を伝えるべく「みんなのみらいをつくる保育園東雲」のスタッフにインタビューをしてきました。
保育園は誰のための施設なのか
フローレンスの保育園で働くきっかけはなんだったのでしょうか?
元々通訳の仕事をしていたんですが、訳あって働き方を変えようと思ったときに「保育士」という職業がふっと浮かびました。実は私が中学生の頃から母が自宅で子どもを預かる仕事をしていたんです。高校生ぐらいのときは自宅によその子どもがいるのが本当に嫌だったんですけど、どこかで居心地のよさも感じていたのかもしれませんね。まあやってみようという感じで保育士試験を受けました。
保育士資格を取得する前は、一年間だけ一斉保育の大きな保育園で保育補助をしていました。どんな子にも「決まりだから」「時間だから」と一律にひとつのことをさせるため、途切れ途切れになってしまう活動にうまく対応できない子どもたちもいて、それを見て、保育園って誰のためにあるのかなっていうのはずっと思っていました。
もちろん、保育を必要としている保護者のために保育園がお子さんをお預かりするという認識で間違いないのですが、子どもたちが多くの時間を過ごす保育園がずっと一斉に同じことをする場だと、子どもたちは窮屈だと思うんです。
そんな思いもありつつ保育士試験を受け、合格通知がきた翌日ぐらいになんとなく保育の求人を見ていて目にしたのが「みんなのみらいをつくる保育園 開園」の記事でした。理念や保育内容を読んで、こういう保育ならやりたいと思い応募して、縁あって働きはじめたんです。
実際に働いてみてフローレンスの保育園はどんな保育園だと感じましたか?
フローレンスではどの保育園も子ども主体の保育を大前提にしています。子どもとのやりとりは意識しないとどうしても大人都合になりがちですが、当園のスタッフも全員がこの「子ども主体」を心がけています。子どもの「やってみたいこと」をどうすれば実現できるか、保育者も子どもも一緒になって考える環境づくりについてはまだまだ道半ばですが、試行錯誤しながら取り組めているという意味では良い環境だなと思っています。
子どもの“やってみたい”を実現するためには?
子どもの「やってみたいこと」にはどんなことがありましたか?
紹介したいエピソードはたくさんあるのですが…
例えばある日、5歳児が絵の具遊びをしていたのですが、色を混ぜてみたらおいしいチョコレートみたいな色になったんです。ひとりの子どもがふと「これは本物のお店に飾れたら最高だよね」とつぶやいたので、「飾りたい?」と聞いたら「やりたい!!」と盛り上がって。それで、フローレンスに寄付してくださっているシェイクシャックというお店に交渉して、店内に飾っていただいたことがありました。
他には、普段からいろいろことを疑問を持つ子が、「リニアモーターカーは磁石なのになんで動くの?どうやって止まるの?」と次から次へと質問してきたことがあって。私も分からないので、磁石をどうすれば車体が動くのかを一緒に調べたんです。実際に動かしてみたいね、となって、普段保育園では安全上使えない磁石の購入を園長にOKしてもらい、本とかウェブサイトとかで構造を改めて調べ、作ってみて、磁石だけではうまくいかず最終的には電池まで買って、つなげて…「せーの、オン。動いたー!」みたいに実験したりとか。
あと、これまで野菜を狭いベランダで育てていたのですが、ずっとプランターで作っていたからかうまく育たなかったんですよ。それで、区民農園を借りて地植えで野菜を育てたら、ついにたくさんのトマトが収穫できて、翌日のお昼ごはんで食べたんです。
そしたら、他の野菜ももっとたくさん採れるんじゃないかという期待が湧いてきて、採れた野菜でおやつを作ろうとか、その先その先の希望がどんどん出てくるようになってきたんです。
子どもたちの興味・関心はまさに十人十色。だからこそ子どもたち一人ひとりと向き合い、それぞれの考えを尊重することが「やってみたい」を引き出す近道なのかもしれないですね。向き合った結果、その先その先の希望が出てくるという環境が素敵です!
子どものやってみたいはどのように引き出しているのでしょうか?
子どもたちからの”やってみたい”が増えてきたので、今年度から“行きたいところ”カードと“やりたいこと”カードを作ってみました。カードに書いてポストに入れ、保育者と子どもが一緒になって、できるかできないかを考える仕組みです。するとある日一枚のカードが入っていたんです。
“おかしつくりたい”
このやりたいことカードがきっかけで、図書館でレシピ本を借りて何が作れるか考えたり、どうしたら作れるかを栄養士と相談したりして、みんなでクッキーにデコレーションをしてアイシングクッキーを作るという活動が実現しました。
実際にアイシングクッキーを作ってみると、“自分が発信したことが実現されたんだ”という感覚がちょっとあったようで、「おかしつくりたい」とカードに書いてくれた5歳児に「あなたの提案でお菓子を作れたね。今の気持ちは?」と聞いてみると、「へへっ」と照れつつも嬉しそうな反応が返ってきました。
実現するための準備はどのようにしていますか?
例えば「◯◯先生と一緒にこれを作りたい!」というささやかなお願いもありました。
そういう要望は、準備しなくともすぐにできるので、保育者の時間を確保して子どもとマンツーマンの時間をとっています。
「みんなでお出かけしたい」という場合は、他の行事や天候との兼ね合いもあるので「すぐには実現できないかもしれないけど、少し考えるね」と伝えてから、保育者がまず可能な日にちを話し合い、子どもたちに「この日だったら行けるけど、どうする?」と提案しています。すると子どもたちも納得してくれます。
そうして行く日を決めたら、なにが必要なのか、子どもも保育者も一緒になって試行錯誤して準備です。
私たち保育者は、子どもたちの要望を受け、まずは「どうすればできるか」と実現することを前提に考えます。
とはいえ、どうしても実現が難しいものもあるので、そのときはきちんと子どもたちにできない理由を説明しています。
まずは実現する方向で考えることとは素敵ですね。「できない結果」だけではなく「理由」を説明することで子どもたちの次の提案につながりそうですね!
フローレンスの保育園が目指す保育を実現するために保育者同士で心がけているルールは何かありますか?
ひとつのチームとして働きやすい環境を作っていくために、それぞれのやり方を尊重をし、仕事を分担しています。信頼し任せることで自分の時間を確保し、保育室を抜けて事務作業をしたり、掃除などのルーチン業務に取り組んだりできています。
何よりこの園で働く人たちは、年齢もキャリアも異なるけれどフラットに話せる人たちなので、良好な関係が築けていると感じています。だから「私やりたいことがあるので、今から抜けてもいいですか」とか「今私は大丈夫なので、誰か抜けてもいいですよ」とかいう風に毎日声を掛けあってやりくりできていますね。
保育者として意識していることを教えてください。
子どもたちに「こういう大人になってほしい」というような具体的な期待をかけないようにしています。子どもはたくさんの時間をかけて、いろいろな環境や経験を経て大人に「なってく」ので、私からは「こんな小学生に」「こんな大人に」といったたぐいの期待の言葉はかけない。これを意識しています。自分の生き方は自分で決めていくものですから。
私は、去年も一昨年も5歳児の担任をしてきました。毎日子どもたちと関わる中で、伝えるべきことは真摯に向き合い伝えてきましたが、卒園するときには、ただただこの人たちの今後がどうか豊かであってほしいと願いつつ見送りました。
子どもたちの生き方は子どもたちが決めていくものという考えが素敵ですね。そのためにどんな小さなことでも自分の意志で決めたり、「やってみたい」をみんなで作り上げていく環境が必要なのではないかと感じました。
終わりに
みんなのみらいをつくる保育園東雲では、子どもたちが主体の”やってみたい”を叶える保育環境を懸命に作っていました。そしてその裏側には、“子どもたちと一緒に”を大切に考え、保育の専門性を高く持ち、日々愛情を注ぐ保育者がいます。
もっとこういう保育がしたい!子どものやってみたいを大切にしたい!子どものみらいを一緒に作りたい!そんな秘めたる想いを持ち志を同じくする仲間がもっと必要です。
私たちと一緒に、みんなのみらいをつくっていきませんか?