対談・インタビュー

子育て家庭や働く女性の支援を志し会社員から保育の現場へ

対人支援職(保育スタッフ)
    施設長施設型みらいの保育園

フローレンスは、こどもの虐待や貧困問題、育児の孤立・孤独など、こども・子育て領域の社会課題の解決を目指すNPO団体です。これらの課題を解消するために、病児保育や、保育園、障害児保育、こども宅食、赤ちゃん縁組などのさまざま数々の福祉・支援事業を運営するとともに、政策提言や文化醸成などの活動を行っています。

「働きたくても、こどもを預けられない」。2000年代後半、保育園を設置できる土地や施設の少ない都心部を中心に、待機児童問題が社会課題として顕在化していました。フローレンスは2010年から0~2歳を対象とした、定員19人以下の「おうち保育園」を開始。社会的な反響が大きかったため、小規模保育園の制度化につながりました。小規模保育園は一時、全国で7,000園を超えるほどに拡大し、待機児童解消に大きく貢献したのです。

フローレンスではさらに、保育所・幼稚園に接点のない未就園児のいる家庭の孤立化を解消するため「みんなの保育園構想」を提唱しています。この取り組みが後押しとなり、2023年からは「こども誰でも通園制度」のモデル事業が始まりました。フローレンスもモデル事業の実施事業者として採択され、東京都中野区・渋谷区、宮城県仙台市で未就園児の定期預かりの実践を重ねています。

政府への政策提言やモデル事業の実践が実を結び、「こども誰でも通園制度」は2026年から本格実施される見込みとなりました。これは130年前に保育園が誕生してから、変わらなかった「保育園は働く保護者のこどもが通う」という前提をアップデートし、保育園をすべてのこどもに開くことを可能にする転換点です。

この記事では、子育て家庭や働く女性への支援を志し、会社員をやめフローレンスの保育士にキャリアチェンジしたはっしー先生に、これまでのキャリアやモデル事業の話を聞きました。

「こども誰でも通園制度」法案成立!「保育園」誕生から130年「働いている親のため」から、親が働いていなくても通える場所に!

はっしー先生

はっしー先生

人材派遣会社と結婚相談所で会社員として勤務したあと、短大に入学し保育士資格を取得。在学中からフローレンスのおうち保育園でアルバイトを経験し、2015年の卒業と同時にフローレンスへ入職。保育士として「おうち保育園」「みんなのみらいをつくる保育園」でさまざまな経験を積み、現在は園長を務める。2023年にはみんなのみらいをつくる保育園初台の園長として、こども誰でも通園制度のモデル事業を実践。現在はおうち保育園あさがや園長。

会社員をやめて保育士にキャリアチェンジしたそうですね。

フローレンスに入職する前は、人材派遣会社と結婚相談所で会社員をしていました。人材業界はハードワークで、当時は終電で帰れば良いほうとといった働き方をしていて、やりがいはあったのですが、長くは続けられないだろうなとも感じていました。自分にとっての仕事の意義を考えたときに、お金を稼ぐだけではなくて、自分の強みを活かして、社会に貢献することの重要性も意識し始めていたんです。

フローレンスに関心を持ったきっかけや転職の決め手はなんでしたか?

人材派遣会社で勤務するなかで、派遣先となる企業の方から、お子さんのいる女性はすぐに休んでしまうと言われたことがあり、そのときに病児保育の社会的な重要性を認識したんです。病児保育について調べるなかで、フローレンス会長の駒崎の著書を読んで、団体について知りました。

自分が感じた社会課題について、すでに解消のための施策を具現化している組織があることに驚きました。フローレンスでなら、働く女性の支援や社会進出に貢献する仕事ができるし、育児しながら働く親の気持ち・ニーズへの理解も深まると思ったんです。

フローレンスにはさまざまな職種があります。なぜ保育士資格を取得したんですか?

フローレンスで働きたいと思ったものの、こどもと関わる仕事をしたことがなかったので、まずはこどもを知ることから始めて、資格をもってアピールしようと思ったんです。もちろん入職できる保証があるわけでもないので、退職して専門学校に通うのは無謀と思われるかもしれませんが、不思議と不安はなかったんです。

結婚やマンションの購入などが重なった時期でもあったのですが、妻も「やりたいことがあるなら」と送り出してくれました。保育士の資格を取得した後に、就活イベントでフローレンスの職員に声をかけて、働きたいと伝えたことが入職のきっかけです。

フローレンスでのキャリアについて教えてください。

保育のヘルプスタッフのアルバイトから始め、専門学校卒業後の2015年に入職しました。その後、保育士・主任など現場のスタッフを3年経験して、園長になりました。現場の保育士は行事の計画なども担当するのですが、苦手だったので周りにすいぶんと助けられた記憶があります。保育士は行事の計画を立てたり、制作物を作ったりするんですが、みんな上手で驚きました。

会社員からこどもを相手にする仕事に変わっていかがでしたか?

元々、人と関わるのは好きだったのですが、やはり大人とこどもは違うと実感しました。さらに、めいっぱい体を使う仕事であるうえに、合間の事務仕事では頭を使う。こどもの生活やご家庭の預け時間などが中心になるので、自分のペースでは進められない面もあり、ハードだなと実感しました。楽しみながら、保育をしている保育士たちは本当にすごいなと尊敬しています。

仕事内容が大きく変化するなかで、やりがいを感じたエピソードを教えてください。

関係構築に時間のかかるお子さんがいたのですが、半年くらいは寝かしつけもできず、他の職員の力を借りる状態が続きました。しばらく経って、その子が遊園地に行く予定の日に、行けなくなったことがあったそうなんです。そのときに「保育園のほうが楽しいからいいよ」って話していたそうで。自分が作った環境がようやくその子に受け入れられたと思うと、報われたように感じました。

障害児訪問保育アニーのお子さんにおうち保育園を訪問してもらう交流保育も印象的でした。こどもたちが障がいの有無で分け隔てず、自然に接する姿に感動したんです。また、園のこどもたちと接することで、訪問してくれるお子さんの表情が和らぐこともあり、こどもはこどものなかで育つものだなと実感しました。

「こども誰でも通園制度」が2026年度から始まります。フローレンスの保育園ではモデル事業を実施していますが、どのような手ごたえがありますか?

「こども誰でも通園制度」は保護者が働いているかどうかを問わずに、こどもを保育園に預けられるようにする制度です。社会のニーズは変化していくので、選択肢が増えることで、社会が成熟していくのではないかと考えています。日本の保育園のあり方を大きく変える転換点にもなりうる重要な制度なので、みんなのみらいをつくる保育園初台では「こども誰でも通園制度」のモデル事業を実施しました。

フローレンスの保育園では、空き枠を使って曜日固定で利用していただいています。普段、通園していないお子さんを受け入れるので、こどもたちが落ち着かないような雰囲気はありました。でも、みんなすぐに仲良くなって、楽しそうに過ごしていますよ!

こども誰でも通園制度のモデル事業は、まさに「保育の現場を起点に社会の問題を解決していく」取り組みですね!

実際に利用してくれたご家庭からは、好評の声をいただいています。例えば、あるご家庭ではお母さんがワンオペで育児をしていて、育児に対する疲労感から健やかな気持ちでお子さんと対峙することへの限界を感じていたようです。利用は週1回ですが、その1回があることで、気持ちが楽になったとおっしゃってくれました。地域の一時預かりなども利用するそうですが、必ず利用できるものではありません。用事がなくても決まった日に預けられることが、心身の負担軽減につながっているようです。社会を変える当事者として、今後も自分にできることに取り組み、いろいろな選択肢がある社会をつくっていきたいと考えています。

保育現場のスタッフや働き方はどのような雰囲気ですか?

フローレンスの保育園では職員同士の、助け合いのカルチャーが根付いています。お子さんの用事や保育士本人の体調不良などでも、休みを取りやすいのではないかと思います。これは、園内の人間関係が良好だというだけではありません。各園同士でも助け合うことが日常になっていて、さらに事務局スタッフにも保育士資格を持っている人も多く、現場のヘルプにも積極的に参加してくれます。

主任をしていたころに、第一子が生まれたのですが、その時も園のメンバーに助けてもらいました。園で偶然電話をとったら、妻からもうすぐ生まれそうだとの電話でした。慌てて園長に相談したら、すぐに他事業部から保育士の応援を呼んでくれて。おかげですぐに駆けつけることができたんですよ。

入職してからこれまでに達成できたと感じることやキャリアの将来像について教えてください。

保育の仕事は、こどもの成長や発達を促していくことがもちろん大切ですが、同じくらい家庭支援の視点も大切だと思っています。自分の取り組みが適切かどうか、こどもの成長を見守るなかで、ささやかな「答え合わせ」ができることはありますが、かんたんに正解を示せる業務ではありません。それでも、困っているご家庭を保育園を起点に助けることができると、続けてきて良かったと感じますね。

また、フローレンスでは「シチズンシップ保育」を実践しています。「シチズンシップ保育」は、こどもたちの自主性や協調性などの非認知能力を育てることで、自ら考え試行錯誤し、他者と関わりながら行動する力の基礎を作るという理念です。現場スタッフへの浸透には、まだまだ課題があるので、園長として今後もシチズンシップ保育の浸透に取り組んでいきます。また、個人のキャリアとしては、マネジメント能力を高め、視座を高めていければと思っています。

どのような方がフローレンスとマッチしそうでしょうか?

ビジョンへの共感が重要です。保育士の方が転職する場合、こども一人一人と丁寧に接することを目指して、小規模保育園やマンツーマン保育を希望する方が多いのではないかと思いますが、フローレンスは変化の激しい団体でもあるので、ビジョンに共感できて、変化を楽しめる方がマッチするのではないかと思います。

こども・子育て領域の社会課題を解決するため、社会の状況に合わせて柔軟に保育の形を変えながら、新しいチャレンジをしていくのがフローレンスです。「こういう保育がしたい」「保育という仕事を通して困りごとを抱えるご家庭の支援をしたい」など、さまざまなことに挑戦できる環境は整っていますので、ぜひ仲間に加わってもらって、保育の現場でたくさんチャレンジしてほしいです!

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