対談・インタビュー

医療的ケア児にも保育を。看護師と保育スタッフが作る障害児保育園ヘレン

対人支援職(保育スタッフ)
対人支援職(看護スタッフ)
    中途入社施設型障害児・医療的ケア児家庭支援

医療的ケア児を預けられる保育園は、見たことがありません

これは医療的ケア児を育てる親御さんが、保育園を探すために相談したソーシャルワーカーにかけられた言葉です。

医療的ケア児支援法ができ、全国でも医療的ケア児の保育園入園事例は増えているものの、まだ数が少ないのが現状です。預け先がなく離職を余儀なくされる親御さんも、まだまだ多くいます。

そんな中、障害児を専門に受け入れ保育を行うフローレンスの障害児保育園ヘレンでは、こどもに医療的ケアがあっても入園を受け入れ、医療的ケア児の親の就労を支えています

実際にヘレンではどのような保育を行っているのでしょうか。またヘレンがあることで親御さんの人生にどう影響しているのでしょうか。都内に4園あるヘレンのうち、江東区にあるヘレン東雲を取材し、話を聞いてみました。

障害児保育園ヘレンとは?

フローレンスの障害児保育園ヘレンは、重症心身障害児や肢体不自由児などの障害児を専門に受け入れる保育園です。医療的ケアのある子も受け入れ対象になっています。

2024年6月現在都内に4園あり、在園児のほとんどが重症心身障害児です。

今回取材に行った江東区にあるヘレン東雲には、現在7名の重症心身障害児が在籍しています。

重症心身障害児と一口に言っても障害の程度やできること・医療的ケアの有無などは様々です。それぞれのお子さんに対し、保育スタッフや看護師がその子の特性に合った遊びやプログラムを提供しています。

またヘレン東雲では健常児との交流もしやすいという特徴があります。ヘレン東雲が入っているビルの一つ上の階にフローレンスの「みんなのみらいをつくる保育園」があり、行き来がとてもしやすいためです。今も園児の中には毎日交流をしているこどももいるそうです。

ヘレンの一日は?

障害児保育園ヘレンではどのように過ごすのでしょうか。今回は普段の一日の様子とあわせ、イベントの日の様子も少しだけ紹介します!

通常の一日の流れ

時間概要詳細
8:00-
10:00
ヘレンの送迎バスで園児が登園ヘレンでは全員が送迎で登園しています。バス内で医療的ケアが必要なお子さんのバスには看護師が同乗し医療的ケアを行います。
登園次第随時各自自由遊びや朝のケア水分補給やおむつ交換、こどもに合わせた医療的ケアなど
10:00-
11:00
集団活動ここからは園児みんなで活動を行います。ここで行う活動はそれぞれのお子さんの状況や特性、伸ばしたいことに合わせてスタッフがしっかり計画を練って実施する活動です。
11:30-
12:30
昼食持ってきたお弁当をみんなで食べます。経管栄養のお子さんは注入を行いますが、「みんなで昼食をとる」という時間になるよう工夫されています。
12:30-
14:00
お昼寝
14:00-
15:00
自由遊びお昼寝から起きたこどもから自由に遊ぶ時間になります。
15:00おやつ(ヨーグルトなど提供)みんなが起きてきたらおやつの時間。園でヨーグルトなどのおやつを準備したり、持参したおやつを摂取したりしています。
16:00ヘレンの送迎バスで降園このくらいの時間から順次降園します。帰宅後に訪問看護などが入る子が多いため、入っている在宅支援に間に合うように降園します。

ピクニックの様子をちらっと紹介

ヘレンでは半年に一回程度、遠足やピクニックなどの屋外活動も行います。2024年5月には、ヘレン東雲から歩いて20分ほどの豊洲公園にピクニックに行きました。その時の様子を少しだけご紹介します。

公園のブランコはしっかりホールドしてくれるタイプのもの。さらに先生たちが体幹が弱いこどもでも乗れるようにタオルやクッションで姿勢を支えられるよう工夫し、安全に乗ることができました。

ぐるぐる回る遊具には全員で!呼吸器がある子も、もちろん一緒です。

マットやテントなども用意して休憩場所も完璧!医療的ケアもできるように準備していきます。

海岸沿いの遊歩道でゆっくりさんぽも楽しめました。また、公園に来ていた他のご家族との交流も!医療的ケアがあるこどもと外出は、準備なども考えると家族だけでするのは億劫になることもあります。こうして安心して出かけられる工夫をしてくれて、お友達とみんなでできる外出の機会は貴重です。

ヘレンの仕事は大変?スタッフに聞きました

こうして医療的ケア児の親の就労を支えるだけでなく、こどもの成長や経験を増やすことも妥協せず取り組んでいる障害児保育園ヘレン。一人一人の状態にも個人差が大きく、多くの配慮や注意が必要な重症心身障害児や医療的ケア児の保育を行うことは大変なのでは…そう考え、ヘレンのお仕事について、看護師、保育スタッフそれぞれにインタビューしました。

こどもの成長に向き合えることが魅力 ~看護師へのインタビュー~

かなこ先生(ナース)

わたしがヘレンで働くきっかけになったのは、小児病院で働いていた頃に入院中の親御さんから聞いた「先の見通しが立たない」という不安の声でした。病院で働いていた時にはお子さんが退院してからどんな生活が待っているのか不透明なところも多かったのですが、その声を聞いて退院後の生活に興味を持ったんです。

実際働いてみて今思うのは「その子の成長にしっかり向き合える」ことがすごく魅力的な仕事だなということです。病院では日々の業務に忙しく、必然的に「その子のケアをすること」だけ考えることになってしまい、その子の生活や成長、というところまで目を向けられませんでした。

今はみんなでこどもの成長に向き合い「できない」ではなく「どうやってやろう?」を全員で考える、保育の邪魔にならないよう医療的ケアをする、など工夫しながらこどもに関われることが嬉しいです。

特性に合った遊びを考え、笑ってくれることが最高のやりがい ~保育スタッフへのインタビュー~

かこ先生(保育スタッフ)

わたしには重症心身障害のあるきょうだいがいて障害児が身近な存在だったことやわたし自身がこどもと遊ぶのが好きということから、ずっと障害児の保育に関心を持っていました。以前は療育センターで働いていましたが、療育だと時間が短いので、もっと長時間こどもに関わりたいと思いヘレンに入りました。

ヘレンで障害児や医療的ケア児と長時間一緒に過ごす中で、親の就労支援ができることはもちろん、それぞれ特性やできることできないことがある中で「どう遊ぼうか?」と考えて実践したり、自分で遊ぶのが難しいお子さんに対して遊び方を工夫したら笑ってくれたり、ということはすごくやりがいだなと思っています。

わたしがきょうだいや家族と過ごした経験からも、もっと身近に障害児や医療的ケア児が存在する社会になったらいいなって思っているし、そんな社会にするために自分なりに頑張っていきたいです。

保育スタッフと看護師の協働でこどもの成長を支えるヘレン

現在ヘレン東雲を利用している親御さんにお話を聞くと、「ヘレンは安心して預けられる場所」とおっしゃっていました。この方は、冒頭でご紹介した「医療的ケア児を預けられる保育園は見たことがない」とソーシャルワーカーから言葉をかけられた親御さんです。「ずっと頑張ってきた仕事をやめないといけないのか」と自分のキャリアや共働きの道を諦めかけていましたが、ヘレンがあることで育休期限ギリギリで職場復帰できたのだそうです。

体調を崩しやすいお子さんということもあり、障害児や医療的ケア児に理解がある保育園に預けられることで安心して働けるとのこと。

こうして医療的ケア児の親が働くための受け皿になっているだけでなく、医療的ケア児に「みんなと遊ぶ経験」も提供している障害児保育園ヘレン。医療的ケア児の親にとってもこどもにとっても「あってよかった!」と思う場所づくりをすることができているのは、保育スタッフと看護師がそれぞれの得意を活かし、協働しているからとヘレン東雲の小田園長は言います。

小田園長

医療的ケア児も、一人のこどもです。ヘレンではこどもの成長や可能性を一緒に伸ばしていくことを保育スタッフと看護師、それぞれが考え、それが叶えられるように役割を分担しています。保育スタッフは発達や成長をみて遊びや関わりを考え、看護師は保育を存分にできるよう医療的ケアをして支える。こうやってみんなで一人のこどもに関わり、成長を一緒に喜べるのがヘレンのいいところだと思います。

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